
心理カウンセラーの夢を
かなえるため日本へ。
奥深い臨床心理学の世界に
興趣が尽きません。
WU Xinyu
東北大学教育学部 教育心理学コース
WU Xinyu
ゴ シンウ
2024.3.29
日本で夢だった臨床心理の専門家になる夢をかなえたい。
━━東北大学教育学部に入学した経緯を教えてください。
小中学生になると、学校の人間関係で悩むようになり、高校生のときにはカウンセリングを受けるようになりました。そうして少しずつ、過去につらい経験をした自分を受け入れて、当時の環境を冷静に理解できるようになったのです。この頃から、心理カウンセラーという仕事に憧れを抱くようになりました。
無事に合格できたのは良かったのですが、大学生活は学校指定のカリキュラムに必死についていく日々……。好奇心を満たすような学びができず、自分には合わないと感じ退学することを決めました。
家族と話し合い、最終的に出した結論は、臨床心理学を学ぶために日本の大学に進学することでした。日本なら、文系の教育学部から「公認心理師」や「臨床心理士」を目指せるので、夢をかなえるチャンスだと思ったのです。
日本の大学で学ぶためには、「日本留学試験」を受ける必要があります。結果をもとに出願できる大学を絞り、その中から、東京や大阪などの都市部よりも穏やかに暮らせそうな宮城県にある東北大学を選びました。
全学教育で幅広く学び、最終的に専門性を高めていける。
━━東北大学教育学部に入学して良かったと感じるのは、どんな点ですか?

幅広い講義を受けられることです。東北大学教育学部では、専門教育科目だけでなく、1年次に基礎的な教養科目や外国語科目といった基盤科目(全学教育)を受ける必要があります。教育学以外にも、興味のある分野の講義が受けられるので、教養が身に付くだけでなく、興味関心の幅が広がります。
私の場合、歯列矯正をした経験があるので歯学部の基礎授業を受けたり、幼少期から好きだった美術系の講義も受けたりしました。
また、情報系の科目では、脳や認知情報処理などの視点から心理学にアプローチする手法があることがわかり、学部をまたいで心理学に触れられたのも貴重な経験でした。文系の観点から心理学を探究しようと思って入学した東北大学でしたが、結果的に理系の観点からも心理学を理解するチャンスがもらえたと思っています。
こうした幅広い学びを経て、2年次にはコース選択、3年次には研究室配属と、徐々に専門分野を絞っていきます。面白いのは、専門分野には専門分野の世界がまだまだ広がっていることです。私にとっての心理学は、カウンセラーのイメージが強かったのですが、発達心理学や教育心理学、また教育情報アセスメントなどの領域も学ぶことができ、多角的な視点が養えていると感じます。
教育学部は少人数教育なので、きめ細やかな指導が受けられるのも特徴です(令和5年度の場合、学部入学者数73名に対して教員数は41名)。先生方は、優しく思いやりのある方ばかりで、質問や相談がしやすい雰囲気です。女性研究者が多く活躍されている姿も、刺激になっています。
3年次に入り、夢だった臨床心理学の研究室に所属することができました。指導教員の先生はもちろん、その他にも心理学専門の先生方から学ぶことができる環境に感謝しています。
━━幅広く心理学を学ぶ中で、印象に残った講義はありますか?
最近、印象に残った講義は「発達障害学演習Ⅱ」です。実は小学生のとき、他の子とは違う振る舞いをするクラスメイトがいて、「なぜ同じ教室で学ぶのだろう」と不思議に感じ、正直怖い気持ちがありました。
ですが、発達障害学の講義を受けてイメージが変わり、知らないから漠然と怖かったのだと気付きました。それがわかってからは、「インクルーシブ教育」(障害の有無や人種、宗教、性別などにかかわらず、すべての子どもたちが一緒に学ぶ仕組み)の意図があって、同じクラスで学んでいたのだろうと理解できましたし、発達障害についてもっと知りたくなりました。
仙台は一年を通して楽しみが多く、暮らしやすい街。
━━日本、または仙台で暮らすようになって、新鮮だと感じたことはありましたか?

まず驚いたのは、部活動やアルバイトなどと、勉強を両立している学生が多いことです。私はこれまで勉強ばかりに集中してきた人生で、部活やサークル活動をしたことがほとんどありません。まわりの学生も、勉強に集中している人が多かったです。
一方、日本の学生の皆さんは、部活動などにも本格的に取り組んでいる人が多く、まるで漫画『ハイキュー』に出てくるバレーボール部活動に取り組む登場人物のように見えました。
また、仙台に住んでみて感じるのは、各シーズンのイベントが際立っていることです。春は桜の名所である西公園で花見、夏は「仙台七夕まつり」や花火のイベント、秋の紅葉シーズンは屋外で芋煮会、冬はイルミネーションが街を輝かせます。一年を通して楽しみが多く、都市的な楽しみと豊かな文化や自然が調和した穏やかな生活環境で、とても暮らしやすいです。
単なる暗記ではなく「知識を自分のものにする」意識が大切。
━━ゴさんは、大学受験に向けてどのような勉強方法を意識していましたか?

私は高校時代、全寮制の進学校で朝から晩まで勉強の日々を送っていました。朝6時から夜9時半まで、授業や自習時間のある環境だったので、とても大変だった記憶があります。ですが、当時の勉強量のおかげで机に向かう習慣が身に付きました。
受験勉強で大切にしていたのは、間違った問題はその日のうちにわかるまで復習することです。語学の勉強は、文法用と単語用にノートを分けて、ひたすら書いて覚えていきました。まったく手が付けられない理数系の問題などは、どこが分からないのかをまとめてから、先生に質問しに行きました。
東北大学入学に向けては、「私費外国人留学生入試」という試験を受けました。これは、日本の皆さんが受ける共通テストや二次試験とは異なるものです。試験のためには、日本留学試験とTOEFLの結果で要件を満たす必要があり、また面接試験の結果なども総合して選抜されます。日本留学試験の出題科目は、日本語に加え、総合科目(公民、歴史、地理など)、数学と多岐にわたるので、何度も練習問題をこなして試験に臨みました。
語学勉強のためには、ドラマを観るのも効果的だと思います。私が観ていたのは、日本語なら「リーガルハイ」、英語なら「シャーロックホームズ」のドラマです。知らない言い回しが出てきたら、メモしておいて知識量を増やしていきました。
そして勉強においてもっとも大切で難しいことは、覚えた知識を自分のものとして落とし込むことだと思います。これには時間がかかりますが、単なる暗記ではなく「知識を自分のものにする」意識が大切なのではないでしょうか。
━━勉強に行き詰まりを感じたときのアドバイスを教えてください。
受験は長期戦なので、「リフレッシュ」が必要です。リフレッシュするからこそ、自分は将来何をしたいのか?心に余裕を持って考えることができ、モチベーションアップにもつながります。
気分転換したくなったら、いろいろな大学のカリキュラムを見比べてみるのはどうでしょうか。どんな講義があるか、自分がこのコースに進学したらどんな生活を送れるか、イメージしてみるのです。すると、勉強に励む理由が見えてくると思います。
また、これは進路を決める際のアドバイスでもありますが、進学後のことをイメージしても、充実した楽しい学びや生活がうまく想像できない場合は、一度他の選択に目を向けてみても良いかもしれません。逆にとても明確にイメージできるなら、そこにたどり着くために今できることを、一歩ずつ積み上げていきましょう。
東北大学なら、臨床心理学への幅広いアプローチと出会える。
━━ゴさんの今後の目標や、研究したいテーマは何でしょうか。

大学院に進学して、臨床心理学の研究を進めるのが目標です。将来は、公認心理師や臨床心理士の資格を取り、心理カウンセラーとして働きたいと思っています。
今、興味があるテーマは「逆境的小児期体験」というものです。小児期の困難な体験が、大人になってからの心身疾患にどのように関連してくるのかに興味があります。この研究は、量的研究より質的研究が向いているため(量的研究は数値データに基づいて分析し結論を導き出すのに対し、質的研究はインタビューや観察記録などを通じて研究対象の経験や視点を理解する)、繊細な研究になると思いますが、時間をかけて丁寧に取り組んでいきたいです。
そして、嬉しい悩みではあるのですが、心理学はすそ野が広くて、興味があることが次々とわいてきます。例えば、医学的なアプローチの神経心理学で、脳と心の探究をするのも面白そうです。また、心理学を知ったきっかけが色彩の絵本だったので、視覚に関する認知心理学にも興味があります。正直、もう少し視点を絞りたいところですが、それだけ奥深いのが心理学の世界であり、幅広いアプローチと出会えるのも東北大学教育学部の環境があってこそだと思います。
━━最後に、臨床心理学に興味のある方にメッセージをお願いします。
臨床心理学は、人と人とのつながりを、心理学を通して探究していく学問です。そのためには、あらゆる経験や学びが役立つと思います。私はもともと理数系の高校で学んでいたのですが、当時学んでいた数式を実際に使うことはなくても、理数の考え方、思考の巡らせ方が今の研究に役立っていると思います。他にも、学校の人間関係で悩んだことや、心理カウンセリングを受けた経験も、すべて今につながっています。
ですから、皆さんがそれぞれ積み上げてきた経験や知識を、ぜひ東北大学教育学部で存分に生かしてください。きっと想像している以上に、幅広く、そして深い学びが体験できるはずです。
■ゴさんのある一日
8:30 起床
朝食を軽く済ませて大学院進学に向けた勉強と午後の講義の予習
12:10 昼食後に身支度を整えて登校
13:00 3限目「心理演習」
14:40 4限目 臨床心理学研究室のゼミ講義
17:20 5限目「発達心理学講義」
空きコマのときは大学院進学を目指す友人と集まり過去問の勉強をすることも
18:30 帰宅
夕食後、今日学んだことの復習と明日のスケジュールを確認して優先順位を決めておく
1:00 ヨガやドラマ鑑賞などの自由時間を過ごして就寝

教育格差
—階層・地域・学歴
著者:松岡 亮二
出版社:ちくま新書
発行:2019年07月05日
おすすめコメント: 私が大学受験の間に読んだ一冊。膨大なデータとともに、日本の教育格差に関する問題を誠実に解説する本です。初めて読んだときは、冷たい現実でつらい気持ちになりましたが、自分の偏っている考えが認識でき、著者の未来への熱い思いに感動しました。教育学部に進学したい方や、教育に関心を持っている方々におすすめです。

Profile
ゴ シンウ WU Xinyu
中国浙江省杭州市出身。地元の進学校を卒業し、大学はコンピュータやエンジニアリングなど理工系専攻の学部に入学。しかしカリキュラムが合わないと感じ、もともと興味を持っていた臨床心理学を学ぶため、日本の大学への進学を決意。現在は、教育学部の教育心理学コースで、主に臨床心理学の領域を学んでいる。