
100%をあと1%でも超える。
その差に気づくと、
物事の成果は大きく変わります。
懐の深い教育学部で思いきり
研究に取り組んでみてください。
ITO Ayahito
大学院教育学研究科 総合教育科学専攻
講師
ITO Ayahito
伊藤 文人
2024.3.29
教育学の土台にある「人間」を理解するためには。
━━伊藤先生の専門分野について教えてください。

University of Queenslandの共同研究者
科学的に“相性”を予測することはできるのか。
━━具体的には、どのような研究をされていますか?

また、相手から自分はどう思われているのだろう?と思うこともあるはずで、この印象予想のプロセスについても研究中です。
まだまだ検証を積み重ねる必要がありますが、将来こうした脳機能を読み取ることで運命の赤い糸を予測できるようになったら面白いと思っています。一口に“相性”といっても、先生と生徒の相性、医療従事者と患者の相性など、さまざまな関係性があります。人間関係に悩みを抱える人が少しでも減らせたら素晴らしいと思っています。
━━伊藤先生の研究分野は、社会の中のどのような場面で生かされていますか?

小論文の面白さに気づいて自信が芽生えた。
━━学生時代のお話を伺いたいと思います。大学受験はどのように取り組まれましたか。

JST-RISTEX総括
当時を振り返って、受験生の皆さんにアドバイスできることがあるとすれば、新書を読むことです。私は予備校時代、新書を読んでその内容をまとめる作業をしていました。もともと国語は苦手でしたが、このまとめ作業を繰り返すうちに、内容を整理する力がついたように思います。イメージとしては、まずは頭の中に情報を発散させて、それを条件に合わせて収束させる感じです。例えば、セクションごとに区切り、ここでは何が言いたいのかをまとめてみる。こうしたポイントを押さえる訓練を重ねると、国語以外のあらゆる場面で役に立ちます。社会において優秀な人というのは、物事の肝となるポイントを見つける嗅覚が鋭い人のように思います。その嗅覚を鍛える方法のひとつが、新書のまとめ作業です。ぜひ今のうちからやってみてください。
本気で研究者の道を志した先輩方との出会い。
━━医学部保健学科から、現在の脳科学の分野を専攻するようになった経緯を教えてください。

内閣官房孤独・孤立対策担当室(現、内閣府孤独・孤立対策推進室)との打ち合わせの様子
試験を受けて無事に入学してからは、卒論からの流れで視覚認知の障害を持った患者さんについて研究していました。ですが、MRIを使って研究していた先生や先輩方から話を聞いているうちに、健常者の脳機能について調べる分野に興味が出てきたのです。指導教員の先生に相談し、そちらの分野を切り替えていきました。
目標ができたのは良かったのですが、実力が伴っておらず、理解が追い付かなかったり英語の壁にぶち当たったりと、頑張らなければならないことが山のようにありました。修士1年のときに受けたTOEICの点数は500点台。そこから次のテストまでの3カ月間、猛勉強し、3日で1800個の単語を覚えるほど集中して取り組みました。単語を覚えるコツは、インプットよりもアウトプットを多くすることだと思います。暗記用の赤シートを使って、繰り返し、ひたすら自分をテストするのです。こうして集中的に勉強し、2回目のTOEICでは770点まで点数が伸びました。
院生時代、特に印象に残っているのは博士3年のときにチャレンジした「日本学術振興会」の特別研究員制度(通称、学振PD)です。簡単に説明すると、優れた若手の研究者に給料や研究費を出してくれる制度。お金をいただくわけですから、簡単には採用されません 。当時はたしか、採択率10%台と非常に狭き門だったので、選考に必要な書類を必死で執筆しました。日々自分の限界との戦いで、どうすれば審査員の方々に納得してもらえる書類になるだろうかと試行錯誤を続けました。そんなある日、朝から嘔吐してしまったんです。疲れやプレッシャーがあったのだと思います。尊敬する先輩に話すと「自分も経験したことがある」と、同じ道をたどっていたことがわかりました。きっと今が勝負所で、ここで踏ん張れるかどうかが研究者としての未来を左右すると思ったのです。結果、無事に採用され 京都大学で働くこととなり、それまで以上に研究に専念できるようになりました。
100%をあと1%でも超えようとする気持ちが未来を変える。
━━伊藤先生のこれまでのご経験から、受験を控えている学生の方に向けて伝えたいメッセージをお聞かせください。

最近になって、こうした努力を言語化できるようになったのですが、「100%を超える」意識が大事なのだと思います。例えば書類や論文を書いたりする際、98%の完成度と105%の完成度は、たった7%の違いしかありません。ですが、98%の内容は予想の範囲内であるのに対して、105%の方は相手を「お!」と驚かせるものになるのです。研究者の間では、あと一歩の研究内容のことを「ナイーブ」と呼び、もったいないと表現することがあります。私も、もったいないという気持ちを持つようになってから、100%をあと1%でもいいから超えるよう意識するようになりました。他人と比べるのではなく、今の自分の限界を超える気持ちが、成果につながると思います。101%生活を続けていくと、知らないうちに見える景色が変わってくるはずです。

天才たちの日課
—クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々
著者:金原 瑞人
出版社:フィルムアート社
発行:2014年12月15日
おすすめコメント:世界的の偉人たちは、どのような日常を過ごしているのでしょう。ヘミングウェイ、ベートーヴェン、村上春樹など161人の天才たちのルーティンをまとめた本です。多くの天才は、意外と地味で単調な日々を送る中でコツコツと努力をしていて、その積み重ねが成果につながっているケースが多いとわかります。バリエーション豊かな実例を通して、物事に取り組む姿勢が学べる一冊です。

Profile
伊藤 文人ITO Ayahito
北海道札幌西高等学校卒。北海道大学医学部保健学科で学んだ後、2008年に東北大学大学院医学系研究科に進学。2013年に同博士後期課程修了。
その後、京都大学こころの未来研究センター(学振PD)や、イギリスのヨーク大学心理学部・サウサンプトン大学心理学部(学振海外特別研究員)などを経て、2023年4月より現職。
令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞(業績名:ヒトの社会的相互作用を支える認知神経基盤の研究)などを受賞。
博士論文:「Neural correlates of execution and preparation of deception」
修士論文:「他者からの社会的評価により惹起される快・不快感情に関わる神経基盤の検討:PETによる脳機能画像研究」
卒業論文:「統覚型視覚性失認における視機能の検討」