ミネルヴァ・ノート

教育学研究科・教育学部インタビュー

TOHOKU UNIVERSITY

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留学してわかった
現地調査の大切さ。
世界での学びを
糧にしてさらに
教育を探究していきたい。

INOUE Hiromu

東北大学大学院教育学研究科
グローバル共生教育論コース
博士課程前期2年

INOUE Hiromu

井上 広夢

2025.3.25

インドネシア留学で現地の教育問題を調査。

━━井上さんが現在興味を持っている分野や研究テーマについて教えてください。

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私の現在の研究テーマは、インドネシアの貧困層に対する教育支援です。
博士課程前期の夏から約1年間、インドネシアの大学に留学し、経済的に困難な人々の支援活動に取り組みました。支援する側の課題や、支援を受ける側のニーズを調査するうちに、思っていたよりも深刻な課題が見えてきました。例えば、インドネシアでは所得格差が年々広がっています。現地の支援スタッフからは、「日本と同じ尺度では考えないほうが良いと思います」と事前にアドバイスを受けました。実際、富裕層の子どもは幼い頃から私立の教育機関で学び、バイリンガルやトリリンガルであるのが当たり前だといいます。一方で、貧困層の中には母国語の読み書きさえ難しい人も少なくありません。貧困層の方々にとってもっとも重要なのは「どうやってお金を稼ぐか」という現実的な課題であり、支援する側もされる側も、その解決に向けて強い問題意識を持って協力している姿が印象的でした。
留学中、もっとも苦労したのは言語の壁でした。英語はある程度話せたので不安はなかったのですが、いざ現地の活動に参加すると、周囲には英語を話せる人がほとんどおらず、一からインドネシア語を学ぶ必要がありました。単語を覚えることから始め、片言の会話でコミュニケーションを取りながら、少しずつ言語を習得し、留学期間が終わる頃には、簡単な日常会話ができるまでになりました。結果的に、現地の言葉でインタビューを行えた経験は、研究を続けていく上で貴重な糧になったと思います。

自身の経験から「教育」というキーワードが見えてきた。

━━東北大学教育学部を受験した経緯について教えてください。

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「教育」という学問に興味を持ったのは、高校時代と浪人時代の経験が大きく関係しています。
高校生の頃の私は、学校教育になじめず自宅やカフェで自習する日が少なくありませんでした。今振り返ると、私は答えに至るまでの過程をしっかり理解したいタイプだったため、授業でもっと理由を教えてほしかったのだと思います。しかし、限られた時間では一人ひとりの疑問にじっくり向きあってもらうのは難しいものです。次第に、自分のペースで学習するスタイルが定着していきました。この時の経験が、教育のあり方を考えるようになったきっかけの一つです。
もう一つのきっかけは、浪人生の時に感じた山形と東京の教育環境の違いです。現役時代に受験した東京大学文科三類は不合格でしたが、すぐに気持ちを切り替えて上京し、東京の予備校に通うことを決めました。山形の地元周辺には大学受験のための予備校がなかったため、私にとっては念願の学びの場です。ところが、周囲の予備校生の多くは、小学生の頃から塾に通い難関高校を経てきた人ばかりでした。さらに、別のクラスには中学生向けの大学受験対策コースもあったようです。地域によって学びの機会にこれほどの差があることに驚くと同時に、正直悔しさも感じました。この経験も、教育への関心を高めるきっかけになりました。
浪人の1年間は、受験対策とともに、学びたい分野を深く考える期間になりました。そこで浮かび上がってきたのが、元々興味があった「教育」というキーワードです。一度東京に出たからこそ、東北地方に意識が向くようになったこともあり、最終的に東北大学教育学部を受験することにしました。

国際的な学びを通して興味の幅を広げられる。

━━東北大学の好きなところや入学して良かったと感じる点はどこでしょうか。

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東北大学の学生も、仙台に住む人たちも、穏やかな雰囲気の方が多いと感じます。落ち着いた環境で大学生活を過ごしたい人にはぴったりの場所です。ただ、意外かもしれませんが、能動的にチャレンジする学生も多いように思います。例えば、工学部にいた友人は、学部生の時にエンジニア系のベンチャー企業を立ち上げていました。その後、さらに専門性を高めるために海外でも挑戦しているようです。
仙台駅周辺の活気のある街並みと、大学周辺の自然豊かな環境のバランスの良さも魅力です。個人的には、東京にいた頃より生活費が抑えられたり、同じ家賃で広めの部屋に住めたりする点も、東北大学を選んで良かったと感じる理由の一つです。
さらに、東北大学は国際的な学びのチャンスが多く、興味の幅を広げる機会に恵まれています。私は学部生の時にSAP(Study Abroad Program)という短期海外研修プログラムに参加し、カナダで1カ月間の語学研修を受けました。また、交換留学で半年間フィンランドの大学にも通い、教育先進国とされるフィンランドの教育について学びました。そして大学に進学してからはインドネシアにも留学し、貧困層への教育支援について研究しています。
先生方は、こうした海外での学びの機会を積極的に勧めてくださいますし、一定の条件を満たせば奨学金などの経済的支援を受け取ることも可能です。語学力向上や海外での学びに関心がある方は、ぜひ「東北大学グローバルラーニングセンター」の情報をチェックしてみてください。

解き方の構造まで理解できれば勉強はもっと楽しくなる。

━━中学生や高校生時代はどのような勉強を意識していましたか。

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中学生の頃の私は、「量」に頼った勉強をしていました。とにかく数をこなして覚えることに集中し、その方法で学年上位の成績を出すことができていました。ところが、高校生になると問題の難易度が上がり、どれだけ量をこなしても応用問題には対応できなくなりました。ただ暗記するだけでは限界があると感じ、問題の構造を理解する方法に切り替えることにしました。
具体的には、本屋に並んだ膨大な参考書の中から、「解説」を読んで自分が納得できるものを選び、それを使って勉強しました。「なるほど、だからこの形式を使うのか」と問題を解く過程を理解しながら勉強することで、勉強の面白さをより実感でき、モチベーションも上がっていったように思います。

━━井上さんが一番苦労した科目と、それを克服した方法があれば教えてください。

私は、歴史科目があまり得意ではありませんでした。人名や年号がなかなか頭に入らず、苦手意識を持っていました。今振り返ると、当時は受験対策に意識を向けすぎていたのかもしれません。もっと別の視点からアプローチしてみても良かったのではないかと思います。例えば、歴史を題材にしたマンガやドラマ、アニメで時代背景をつかんでから学べば、細かい情報も覚えやすかったかもしれません。
英語や国語の長文読解も苦手でしたが、予備校の先生のアドバイスをきっかけに、思い切って基礎から学び直しました。 英語は中学1年生の教科書に出てくるような簡単な単語から見直し、それぞれの意味やイメージを整理しました。国語の現代文では、「しかし」や「そして」などの接続語の働きを改めて学び直しました。こうして基礎から勉強し直したことで、徐々に正解率が上がり、問題を解くスピードも速くなりました。
受験を控えている皆さんも、覚えることの多さに焦る瞬間があるかもしれません。そんな時こそ、基本に立ち返ってみるのがおすすめです。構造から理解し納得感を持って学ぶことができれば、少しずつ焦りを自信に変えていくことができると思います。

東北大学はあなたの興味を大切にしながら学べる場所。

━━井上さんの今後の目標について教えていただけますか。

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今後は、博士課程後期に進み、研究を続けたいと考えています。これまでインドネシア、フィンランド、カナダなどさまざまな国で学び、世界各国の人々と触れ合ってきました。その中で、現地に行かなければわからない、その国の方々の悩みや問題意識が存在することを知りました。
例えばフィンランドは「世界一幸せな国」と言われていますが、実際にはうつ病の患者数が多いことが報告されています。私が留学した2021年当時は移民問題で社会が混乱している様子も目の当たりにしました。こうした経験を通して、自分の目で見て感じることの重要性を強く実感しました。今後もさまざまな場所に直接足を運んで生の声を調査しながら、研究を続けていきたいと考えています。

━━東北大学教育学部を志す学生の皆さんに一言メッセージをお願いします。

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この記事を読んでくださっている方の中には、まだ学びたい学問分野がはっきりと見えていない方もいらっしゃるかもしれません。そんな時には、まずは漠然とでも「自分が関心を持ち続けられそうなテーマは何か」を考えてみることをおすすめします。
私自身も進路を考えた時、「教育」というテーマなら、それまでの自分の人生を通して考えることが多く、大人になってからも学びや成長は身近なテーマだと感じたため、自分に合っているのではないかと思いました。予想した通り、今でも意欲的に探究し続けています。
東北大学教育学部では、教育に関するさまざまな研究が行われており、皆さんもきっと自分の興味にぴったりのテーマに出会えると思います。また、語学研修プログラムや交換留学などの国際的な学びの機会を活用することで、視野を広げ、研究に新たな視点を加えることもできます。
ぜひ、東北大学教育学部で自分の興味を大切にしながら学びの世界を広げていってください。

■井上さんのある一日

9:30 起床 支度して登校
   10:30 2限「グローバル共生教育論合同演習Ⅰ」
   同コースの学生とともに、海外や日本の教育の現状と課題について共同研究を行い、
   教育の実態をグローバルな視点で学びます
12:00 昼食
13:00 3限「成人教育研究演習Ⅰ」
   現在進めている研究の途中経過を報告します
14:30 研究室や図書館で論文を読むなどして知見を広げます
   事前にアポイントを取った先へインタビュー調査に行くこともあります
18:00 塾講師のアルバイト
21:00 帰宅後、課題の整理などをする
25:00 就寝

友だち幻想

著者:菅野 仁
出版社:筑摩書房
発行:2008年3月

友人関係、親子関係、恋愛関係など、さまざまな人間関係の理想と現実を示しながらも社会には優しさがあるという希望も感じられる一冊。多くの中高生や人付き合いに悩む人に読まれているロングセラー本。

Profile

井上 広夢INOUE Hiromu

山形県立米沢興譲館高等学校出身。都内の予備校に1年間通った後、東北大学教育学部に入学。学部生時代に、カナダへの語学研修やフィンランドへの交換留学を経験し、世界の教育に興味を持つ。現在は大学院に進み、インドネシアの貧富の差と現地の教育の実態について研究している。

[学士論文]
強制されない『自己の発見』をもたらすインフォーマルな学習
[修士論文]
起業学習がつくるコモンによる住民のエンパワーメント
―インドネシアの CLC を事例として―