ミネルヴァ・ノート

教育学研究科・教育学部インタビュー

TOHOKU UNIVERSITY

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研究テーマは「いじり」。
ジャズの即興演奏と
システム理論が結びつき、
心理学への道へ。

SAKAMOTO Kazuma

大学院教育学研究科
助教

SAKAMOTO Kazuma

坂本 一真

2026.3.12

自身の経験から「いじり」を心理学の研究テーマに設定

━━坂本先生の研究について教えてください。

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私の主な研究は「いじり」に関するもので、「いじられキャラ」と表現されるような人をいじる現象について研究しています。博士論文もこのテーマで書きました。もともと青年期の友人関係に興味があり、自分自身もいじられる経験があったことからこの研究を始めました。
また、大学院では家族療法の視点から、個人の内面だけでなく、人と人との関係性から心理を研究するようになりました。現在は家族に関する研究も行っています。他にも、学生時代から継続して、海上保安庁のハラスメントチェックリスト作成や、障害を持つ方の就労支援に関するEラーニングコンテンツ開発など、社会実装に近い活動にも携わっていました。

━━いじめ」ではなく、あえて「いじり」に注目したきっかけは?

いじめの研究は1980年代から蓄積があり、多くのことが解明されています。しかし、時代と共に子供たちの関係性は変化しており、明確な加害者と被害者がいるというよりも、日常的なコミュニケーションのやり取りの中で心を傷つけてしまい、いじめとして展開してしまう例が多くあります。そこでわたしが注目したのが、仲間関係を結んだままに、その仲間内で誰かを笑い者にしてみんなで楽しむ「いじり」という現象です。自分がいじられキャラだった経験からアイデアが浮かびました。
教育学の分野では、心理学的なアプローチは重要で、私が大切にしているのは、日常的な現象を研究して言語化していく心理学の視点です。心理学(特に臨床心理学)の面白さは、日常生活の中で実感していることが研究を通して理論化・一般化され、問題解決のために活用されていくことだと感じています。研究結果としては、日常の実感と相違ないことが多いのですが、深くデータを分析していくと、実感ではつかみ切れなかった、新たな発見があることも心を研究する面白さの一つかもしれません。今も、日常の中で関心を惹かれた事柄はメモに残して、研究テーマとして扱えないか、考えています。

理論だけでなく実践も重視。臨床心理学の専門家として教員として、向き合う人の変化が励みに。

━━現在のお仕事の内容について教えてください。

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東北大学の助教としてオムニバス形式の授業を担当するほか、臨床心理士・公認心理師を目指す学生たちの実習調整役を務めています。医療、教育、福祉、産業労働、司法矯正など、多岐にわたる実習先との調整や学生の教育指導が主な役割です。
病院実習であれば、診察や心理検査への陪席など、大学の座学だけでは得られない体験ができます。私は実際の現場での経験を重視しており、学生がそこから気づきを得られるよう支援する役割を担っています。
また、教育学研究科付属の臨床心理相談室では一般の方の相談を受けていますが、実習の一環として学生がカウンセリングを行う際のスーパーバイズ(指導)も行っています。学生と一緒に振り返りやフィードバックを行いながら、ケースを担当する学生の内省や自己理解のプロセスに寄り添い成長を促し、カウンセリングの質を高め、心理職として学生を育てていく仕事です。

━━東北大学に着任される前に、教育現場や医療現場での勤務経験などを積まれているということですが、現在の教育や研究に繋がっていますか?

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まさに直結していると感じています。現場経験があるからこそ、学生には実際の現場で求められる動きや柔軟性の重要性を知ってほしいと思っています。臨床心理士・公認心理師の仕事は心理面接や心理検査、地域援助などの専門的な仕事がメインですが、現場では人手が足りない時に他の業務をフォローすることもあります。臨床心理士・公認心理師としての専門性を保ちつつ、組織の中で柔軟に動くことは非常に大事です。実習先でもその重要性を掴んでほしいですし、現場と大学の間を取り持つ身として、その思いを伝えていきたいですね。

━━クライエント(患者さん)と向き合う時間と、学生を教える時間、それぞれのやりがいに違いはありますか?

関係性は異なりますが、どちらも人の成長や変化に付き合う仕事だと感じています。対話を繰り返していく中で相手の努力や気持ちの変化につながると、私自身も励まされ、学ぶことがたくさんあります。変化のプロセスに寄り添うという点では、どちらも共通したやりがいがあります。

研究の軸が決まると、すべての学びがつながってくる

━━高校時代はどのように過ごされましたか?

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青森県八戸市の高校に通っていました。特に目立つタイプでも静かなタイプでもありませんでしたが、良い友達に恵まれた時期でしたね。部活は空手部とギターバンド部(軽音楽部)を掛け持ちしていました。小学校からピアノを習っていて、高校ではドラムを担当し、バンド仲間とは今でも交流があります。空手は先輩の姿に憧れて始めました。

━━高校での勉強にはどのように取り組んでいましたか?

進学校だったので宿題や提出物は多かったのですが、クラス全体で助け合いながら勉強する雰囲気がありました。得意科目が異なる友達同士で教え合っていましたね。私の得意科目は英語、国語、地学でした。塾には行かず、友達と図書館やファストフード店で勉強したり、登下校中に単語帳を開いたりと、工夫して時間を作っていました。周囲に目標を持って勉強に励むお手本のような友人がたくさんいたので、彼らから吸収することで乗り越えられたと思います。

━━勉強に悩む高校生に対して、アドバイスはありますか?

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やる気が出ないという時でも、まずは手をつけてみると面白さが見えてくることがあります。私も数学が苦手でしたが、受験直前に集中して取り組んだら、公式をパズルのように組み合わせて解く面白さに気づけました。
高校時代は、なぜこの勉強が必要なのかがわからずに課題をこなしていましたが、心理学という自分の柱ができてから、全ての科目が繋がっていると気づきました。歴史は心の理論の発展を知るために、数学は統計に、国語は言葉選びや相手の心情把握に、英語は世界中の論文を読み解くために全てが現在の研究に役立っています。自分の研究の軸ができると、全ての学びが途端に面白くなりますよ。

大学3年でシステム理論に出会い、感動。大学院への進学を決意

━━岩手大学に進学し、心理学に興味を持った理由は?

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実は、最初から明確なビジョンがあったわけではなく、合格した大学に進学したというのが正直なところです。文学や哲学に興味はありましたが、卒業後は就職するつもりでした。転機は3年生の時に受けた臨床心理学の授業です。先生が家族療法や関係性の視点について講義してくださり、それが非常に面白くて興味を持ちました。
当時、サークルでジャズのピアノを弾いていたのですが、その先生からシステム理論の話を聞いた時、「これはまさにジャズの即興演奏だ!」と直感しました。自分が弾いた旋律に誰かが応え、それをまた拾って返して深まっていく。演奏していると感じる、バンド全体が共有する力学のうねりのようなものこそが、システムの力でありシステム理論が説明していることなのだと気付き興味を持ちました。

━━そこから心理学の研究を深めたのですね。

はい。東北大学にシステム理論の専門家がいらっしゃると聞き、絶対に大学院に入学してその先生の下で学ぶんだ、と決意しました。修士を修了し公認心理師と臨床心理士の両方の資格を取得しました。修士を修了して現場にでる選択肢もありましたが、博士号を取得して研究の道へ進めば、臨床現場と研究の両方の可能性が広がると考えました。

研究は一筋縄ではいかないからこそおもしろい。研究のプロセスを通して得られたスキル

━━大学院での研究で特に大変だったことは?

研究テーマにしてから気づいた難しさは、「いじり」が学術概念ではなく俗語である点でした。からかいや冗談といった類似した学術概念との違いを明確にすることに苦労しました。社会学ではすでに議論されていましたが、それを心理学の手法に持ち込むのは難しく、統計的な研究を行うには、曖昧な言葉を明確に定義しなければなりません。心理尺度を作る過程で何度も失敗したので、基礎研究にはかなりの時間を費やしました。

━━第一人者ならではの苦労があったんですね。「いじり」は、日本独自の文化的な側面もあるのでしょうか。

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似たような関係性は海外にもありますが、日本の「いじり」は「ボケとツッコミ」のように双方が役割を演じていたり、いじられる側が「おいしい」と感じる場合があったりと、非常に複雑です。また、例えば学校のクラスが葛藤を抱えてギスギスしているときに、「いじられキャラ」を集団内に置くことで笑いが生まれ、集団生活を円滑にする戦略としての側面もあります。そうした多角的な視点が必要なテーマです。

━━研究や調査を通じて得たことはありますか?

調査をしても、最初から仮説通りに結果が出ることは稀です。でもそこで諦めず、条件を絞ったり視点を変えたりすることで、真実の一部が見えてくる瞬間があります。失敗してもやり続けることの大切さを学びました。
また、博士課程在学中は働きながら研究を続けていたので、長期的なプロジェクトを計画的に進める力や、自分の体力の限界を把握しながら継続する力も身につきました。研究の成果はもちろんですが、そのプロセスで得られた力も、今の私に役立っています。

━━最後に、大学生活で経験してほしいことは何ですか?

私の原点に音楽があって、そこからシステム理論に結びついたように、まずは自分の好きなことを突き詰めてみてください。好奇心を持って何かに没頭すれば、いつかそれが学問的な興味と結びつき、学びへの意欲に変わるはずです。
また、理論と実践の相互作用を大切にしてください。私は現場で働きながら研究したことで、双方の理解が深まり、現場の経験から研究のアイデアが出ることもありました。様々なことに挑戦してみると、新たな発見や興味が生まれます。

精神の生態学

著者:グレゴリー・ベイトソン
出版社:岩波文庫

ベイトソンは心理学、文化人類学など様々な分野を横断して関係性やコミュニケーションを研究した「知の巨人」です。円環的な相互作用の中で現象を捉える視点での論文が集まっており、システム理論の視点で物事を考えたい時に手にとって立ち返っています。

Profile

坂本 一真SAKAMOTO Kazuma

岩手大学卒業後、東北大学大学院にて修士・博士号を取得。臨床心理士・公認心理師として教育領域や医療領域での臨床現場を経験し、2025年6月より東北大学大学院教育学研究科助教。専門は臨床心理学。自身の経験を原点に、友人関係における「いじり」の構造をシステム理論の視点から研究。趣味は楽器演奏。