緊張や挫折を研究の原動力に。
ストレスの
生起メカニズムを
解き明かす。
MAEDA Shunta
大学院教育学研究科
准教授
MAEDA Shunta
前田 駿太
2026.3.23
心理的な困りごとの発生と持続について明らかにする
━━前田先生の研究について教えてください。

私の研究のキーワードはストレスです。ストレスは目に見えず捉えどころのないものですが、それが心や体に悪影響を及ぼしています。私は、心理的なストレスがいつどのように発生するのか、また、それがどのようなプロセスを経て心身の症状に結びつくのかという点に関心を持っています。
この研究を進めるうえでの切り口の1つとして、ストレスに関わる認知的情報処理過程に着目してきました。これは、私たちが出来事をどう捉え、どんな意味づけをするかという一連の流れを指します。簡単に言うと、同じような経験をしても、ひどく落ち込んだり体調を崩したりする人と、そうでない人がいますよね。その違いは、物事の考え方や捉え方の違いにあるのではないか、という発想です。
私がこの分野に興味を持ったきっかけは、高校時代の苦い経験にあります。英語のスピーチ部に入っていたのですが、地区大会ではうまくいったのに、府大会では緊張のあまり思うように話せませんでした。その悔しさから、緊張するメカニズムを知りたいと思うようになりました。
━━普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
教育心理学コースの中でも、特に臨床心理学を専門にしています。将来、公認心理師や臨床心理士を目指す学生を育てるための授業が多く、週に5コマほど担当しています。私が中心となっているのは関係行政論という講義です。心理職が活動する上で欠かせない法律や制度を、50人ほどの学生に教えています。なぜ心理職が法律や制度を学ばなければならないのか、という疑問があるかもしれないのですが、心理的問題は個人と環境の交わりの中で起きるので、単に対象者の内面に着目するだけではなく、対象者が安心して生活できるような環境を整えたり、社会資源を活用したりすることが多くの事例で不可欠です。そのための知識を得てもらう講義にできればと思っています。
また、学内にある臨床心理相談室では、一般の方へのカウンセリング実習を行う学生の指導(スーパービジョン)も行っています。その他、心療内科クリニックでの勤務もしています。私自身の研究は、こうした仕事の合間を縫って取り組んでいます。
東北大学には、意欲的で、自分の考えを持った学生が集まっています。授業の後に感想を書いてもらうと、独自の鋭い視点から「なるほど」と思わされる意見が書かれていることがあり、教える立場の私自身が、新たな気づきを得ることも多いです。今後は、学生たちの意見をもっと引き出せるような工夫を凝らしていきたいと考えています。
勉強に集中するも、もどかしさを感じた高校時代。まずは基礎を固めよう!
━━先生はどのような高校生でしたか?

勉強は頑張っていたつもりですが、思うように成果が出ずにもどかしさを感じてばかりでした。地元の京都大学に幼い頃から憧れていて進学を希望していましたが、自分にとってはハイレベルな志望校であったゆえの焦りから、何冊も参考書を買い込んでは消化不良を起こしていました。最終的には教科書や学校からもらった参考書が一番役に立っていたと思います。
だからこそ、今の受験生には、まずは教科書や基本の参考書を完璧にマスターしてほしいです。入試問題の多くは教科書の範囲から出題されるので、背伸びをしすぎないことが合格への近道です。
━━受験勉強でつらかった思い出はありますか?
志望校に合格できるかどうか不安で、自分を追い込みすぎていた時期がありました。入試を間近に控えたある日、どうしても問題が解けなくて、学校の廊下で一人泣いてしまったことがありました。そのとき、全く面識のない職員の方が声をかけて励ましてくださり、それでなんとか気持ちを立て直すことができました。今でも声をかけてくださったのはどなたなのかわからないのですが、社会的サポートの重要性を実感した出来事でもありました。
━━京都大学の教育学部に進学した理由を教えてください。

当時は教育そのものへの関心よりも、臨床心理学のコースが教育学部にあったから、というのが正直な理由です。また、京都大学の教育学部には臨床心理学の権威である河合隼雄先生が過去に在籍しておられたというのも理由でした。ただ、高校生のときは河合先生の著作を読んですらおらず、実際に入学してみて、河合先生の専門と私が興味のあった内容とは少し分野が違っていることに気づいたので、大雑把な選び方をしてしまったなと思います。受験勉強で手一杯だったとはいえ、もう少し真面目に調べるべきでした。
今振り返ってみて、高校生のみなさんにアドバイスを送るなら、もし明確な目的が定まっていないのであれば、周囲の信頼できる人の意見を参考にしてみるのも一つの手です。私は当時、自分の将来のことは自分自身で決めないと、と思って周りの人のアドバイスはあまり考慮しないようにしていたのですが、今になって思えば先生や親がくれていたアドバイスは実際にはとても適切なものであったと感じます。結果的に自分がゼロから決める進路でなくても、選んだ先で得られる学びや出会いは必ずあると思います。
戸惑いからスタートした大学生活。これだ!と思うテーマに出会った集中講義
━━大学時代はどのように過ごされましたか?
受験勉強に必死だった反動か、最初は人とのコミュニケーションにとても苦労しました。サークルに入っても馴染めず、すぐに辞めてしまったこともあります。しかし、教育学部は少人数だったため、周りの人が声をかけてくれたおかげで、少しずつ自分の居場所を見つけることができました。高校生のうちから、人と関わることを大切にしておくと、大学生活がより豊かになると思います。
学問の面では、最初は勉強についていくのに苦労しました。また、自分のせいなのですが、先程お話ししたように、在籍する先生方の専門性と、自分が関心をもっていたことは少し違っていたので、「自分が学びたかったことはこれなのだろうか?」と戸惑いを感じていました。しかし、学外の先生による集中講義で認知行動療法というアプローチについて学び、大きな衝撃を受けました。このアプローチは私が関心をもっていた対人不安の治療とも親和性が高いものだったので、専門的に学ぼうと考えるようになりました。
━━卒業後、早稲田大学の大学院へ進み、研究職を目指した経緯は?
実は私の名前の由来はある著名な物理学者にあり、幼いころから研究という仕事には漠然とした憧れがありました。また、大学時代に飲食店や清掃などのアルバイトを経験しましたが、要領が悪く叱られてばかりで、どれも続きませんでした。自分は社会人に向いていないのではないかと不安を感じていたとき、大学の先生のデータ収集や分析を手伝うアルバイトをしたところ、アルバイト経験の中で初めて仕事ぶりを褒めていただきました。この経験から、自分はこういう仕事の方が向いているのだろうと開き直ったのもあります。早稲田大学に進学したのは、私自身が研究したいテーマにより近い先生がいたことが決め手です。
成果が出ずに苦しんだ大学院時代。手法を変えることで生涯の研究テーマに出会う
━━大学院での研究で壁にぶつかったことはありますか?

当初は、不安を感じやすい人が否定的な情報に過剰に反応してしまう「注意バイアス」という現象を研究していました。しかし、なかなか期待した結果が出ず、行き詰まってしまいました。
そんな中、博士課程に入ってから、指導教員の勧めで唾液を使った生理学的なアプローチに挑戦することにしました。それまでまったく学んだことのない手法で、四苦八苦しましたが、始めてみると自分にとってはとても面白く、今の研究の大きな軸になっています。博士論文では、この手法を軸に、社交不安を抱える人が対人場面を経験した後の生理的ストレス反応(唾液中コルチゾール)の回復について研究し、対人場面での経験について繰り返し考え続けると生理的ストレス反応の回復が妨げられる可能性を見出しました。幸い、博士課程での取り組みを評価していただき、日本学術振興会から「育志賞」を賜りました。
━━大学の教員という道を選ばれたのは、なぜでしょうか?

転機となったのは、2017年に「公認心理師」という国家資格の制度が確立されたことです。資格取得には、大学院で専門的なカリキュラムを修了することが必須です。公認心理師、臨床心理士の養成に関わる仕事に魅力を感じるのと同時に、自らの研究も探求し続けたいと考えていました。教員であれば、教育と研究の両方に向き合うことができる。それが、この道を選んだ理由です。
━━今後、どのような研究を深めていきたいですか?
これまでは実験室の中での研究が中心でしたが、これからは日常生活でのストレスを詳しく調べていきたいと考えています。最近はウェアラブルデバイスで、心拍などの生体反応を簡単に計測できるようになりました。こうした技術を活用して、日々の暮らしの中でいつ何が起きているのかを把握し、ストレスを食い止めるための具体的なヒントを見つけ出したいと思っています。
━━最後に、高校生へメッセージをお願いします。
最先端の知識が全国どこにいても手に入れられるようになりつつある今だからこそ、大学選びでは「誰と、どこで学びたいか」が大事になると思います。東北大学の学生さんは確かな基礎学力やモチベーションをもって入学してこられると感じますし、周囲から刺激を受けながら学生生活を過ごせると思います。東北大学のキャンパスは設備の充実はもちろん、緑豊かで穏やかな場所で、学業に専念できます。東北大学のある仙台は都市的機能と自然の豊かさが同居する素晴らしい街で、学業以外でも楽しく過ごせると思います。
受験勉強は苦労も多いと思いますが、どうか辛抱強くやってみてください。目に見える成果がなかなか現れなくても、日々取り組んだことは必ず蓄積されていきます。研究も似たようなもので、うまくいくことの方が少ないのですが、やっているうちに時々すごく面白いことがわかったりします。一緒にがんばりましょう。

はじめての応用行動分析 日本語版第2版
著者:P.A.アルバート / A.C.トルートマン
大学時代の集中講義で出会い、私の人間観を根本から変えた一冊です。人がなぜその行動をとるのか、環境との関わりから解き明かす入門書として非常に優れています。

Profile
前田 駿太MAEDA Shunta
京都府立宮津高校(現:宮津天橋高校)出身。京都大学教育学部を卒業後、早稲田大学大学院人間科学研究科にて博士号を取得。日本学術振興会特別研究員を経て、2018年に東北大学大学院教育学研究科に着任、2020年より現職。専門は臨床心理学。ストレスが心身に影響を与えるプロセスを研究している。