教育と福祉、双方の視点で、
専門家が学校現場で
手を取り合うための
『合意形成』を追究する。
KUBOTA Tomomi
東北大学大学院教育学研究科
教育情報アセスメントコース
博士課程後期2年
KUBOTA Tomomi
久保田 朋実
2026.3.31
教職員の合意形成の支援方法を研究する。
━━久保田さんの研究や研究手法について教えてください

大きな研究のテーマは、学校教育現場での合意形成です。学校は、教員の他にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど、様々な職種の方々でチームとして運営されているのですが、背景が違った人たちが話し合うときに、どうやって話し合い、合意形成を行うのかをテーマに研究しています。
研究にあたっては学際的なスタイルをとっています。教育学がメインではあるのですが、様々な分野に応用が利くチームでの話し合い、意思決定がテーマなので、社会学に近い要素を含んでいます。そこでさらに工学的なアプローチなどを取り入れることで新規性が生まれると考えています。
研究手法はデスクワークが中心です。研究室で文献を読んで課題を洗い出し、どのようなアプローチが取れるのか考えます。その後シミュレーションや実験を行ってデータを整理し、論文を書いていきます。実験の際は、実際に学校現場に関わっている方などに、ご協力いただいています。
幼い時期から教育分野に関する関心を持っていた。
━━教育に関心を持ったのは、いつ頃からか教えてください
教育分野に関心を持ったのは小学校時代です。大学2年生までは、特に「発展途上国への教育支援」に強い関心を持っていました。そのため、将来は国連職員としてのキャリアを歩むことを描きつつ、教員免許の取得を見据えて教育学部へ進学しました。日本の教育現場よりも海外での活動を志向していたため、国連の採用要件である修士号の取得を目指し、大学院進学も早い時期から見据えて準備を進めていました。
━━国際的な教育支援の研究や国際機関への就職を見据えて取り組んでいた活動はありますか?

大学のときに数回、海外に行きました。大学1年のとき、タイで現地の高校生に日本語を教えるプログラムに2週間ほど参加しました。大学2年のときは、大学生活協同組合のプログラムでフィンランドに行きました。当時、フィンランドの教育システムが話題になっており、新生児から小・中・高・大まで、全ての教育施設を見学しました。
他にも、国連の主催イベントに参加したり、英語の勉強を頑張ったりしていましたね。
現在の研究のきっかけになった「被抑圧者の教育学」
━━そこからなぜ今のご専門に至ったのですか?

大学2年のとき、後ほど紹介する『被抑圧者の教育学』(パウロ・フレイレ著)という本を読み、関心が発展途上国の教育支援から離れました。教育を受けたからといって、必ず幸せになるとは限らないことを感じ、教育が行き渡っていない地域の方々に対して、現地の文化や背景を十分に理解しないまま、豊かな国で生まれ育った自分が受けてきた教育を「与えてあげよう」と考えていた自分の傲慢さに気づきました。また、『被抑圧者の教育学』の著者のフレイレ氏は何十年にも渡って、その地域の文化を尊重しながら学びの場を広げていくのですが、自分はそこまでの覚悟を持っていなかったと気づき、日本での教育の可能性を模索し始めました。
学外では、大学1年から4年まで、学童保育と公文式のアルバイトや、学校現場での学習支援員もしていました。支援員の体験から、授業についていくのが難しい子どもたちに、教員が授業を行うだけの支援では、限界があると感じました。学習支援以前にすべきことがある子どもが多くいるのではないかと考えました。そこで、学部で小学校と幼稚園の教員免許と、保育士の資格を取った他、大学院に進学してからダブルスクールで社会福祉士の資格を取りました。

社会福祉士資格の取得にあたり、実習に行った際、「福祉の考え方」を学びました。たとえば、グループの輪に入れない人に対し、教育の考え方だと輪に入れるように声掛けを行うことが多いですが、福祉の考え方だと「なぜその方は輪に入れていないのか、その方はどのような特性を持っているのか」を観察することから始めるんですね。
このように、自分の中で「教育の考え方」と「福祉の考え方」を吸収した経験が、学校現場で教員とスクールソーシャルワーカー等、違った立場の人が学校現場でどのように意見をまとめていくか興味を持ったきっかけです。
━━高校時代や大学時代についてお教えください
高校は千葉にある芝浦工業大学柏高校でした。 高校時代の得意科目は国語・数学・英語でした。部活は弓道部に入っていました。私は社会科がどうしても苦手で足を引っ張ってしまい、私立は苦戦しました。 一方で、国立大学の二次試験は英語と国語だけで受験できたので、結果的に千葉大学にご縁があり入学しました。
チーム学校を支える研究をしたい。
━━久保田さんの今後の目標を教えてください

今後は学校現場に近い実践と学問を橋渡しできる大学教員になりたいです。また、研究では引き続き、学校現場において多様な背景の人たちがそれぞれの専門性をうまく取り入れながら子供に対する支援を決めていけるような対話のプロセスを生み出したいです。
━━最後に、東北大学教育学部や大学院進学に興味のある学生の皆さんにメッセージをお願いします。

「教育は国家百年の計」と言われるように、例えば戦争がない社会を作りたいと思ったら戦争をしない子どもを育てる必要があります。今学校に通っている6歳の子どもが社会で活躍するのは約30年後です。30年後の社会をより良くするためにも「教育」はとても重要なことです。しかし、それと同時に、家がすごく貧しかったり、家族の世話をしなければなかったりして、満足に学習する機会を得ることができない子どもがいます。私も含め、東北大にいる人や東北大を目指す人の多くが、勉強する環境に恵まれてきたと思います。自分のキャリアアップや、豊かさを追求したりする努力ももちろん大切ですが、困難な状況にいる子どもたちや、そのような環境で育ってきた方々に対して何ができるかということにも目を向けてみてください。
■久保田さんのある一日
7:00 起床
8:00 登校(論文を読む、書くなど集中して行う作業が中心)
9:00 朝食をとって研究室へ向かう
10:00 研究室で作業(メールの返信などの事務作業)
13:30 昼食をとる
14:00 研究室で作業(データを整理したり、研究内容を文章にまとめたりする)
18:30 帰宅 夕食をとる
19:00 ストレッチや筋トレなど運動
23:30 就寝

新訳 被抑圧者の教育学
著者:パウロ・フレイレ・訳者:三砂 ちづる
出版社:亜紀書房
発行:2011年1月20日
社会の中で抑圧される「知らない人たち」に対して、「何かを教えてあげよう」という銀行型教育は与えてもらうことに慣れさせ、学習者を無力化させてしまう。対して、どのような教育をしたら良いのか筆者自身の実践を交え書いた一冊。

Profile
久保田 朋実KUBOTA Tomomi
芝浦工業大学柏中学高等学校出身。国連への就職を志望していたが、千葉大学在学中に『被抑圧者の教育学』に出会うことで日本での教育支援の可能性を模索し東北大学大学院教育学研究科に進学。大学院在学中に社会福祉士の資格を取得し、現在はチームで運営する学校現場における合意形成に関する研究に取り組んでいる。
[学士論文]
A Reliable Method for Innovative Lesson Improvement
[修士論文]
学校現場の多職種協働における革新的な意思決定法の提案