ミネルヴァ・ノート

教育学研究科・教育学部インタビュー

TOHOKU UNIVERSITY

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なぜ「女子にはピアノ」なのか?
民間企業を経て、東北大学で
中等教育の音楽教育史を研究する。

WATANABE Taku

東北大学大学院教育学研究科
生涯教育科学コース
博士課程前期2年

WATANABE Taku

渡邊拓

2026.3.31

中学校や高校の音楽教育のルーツを探りたい。

ー渡邊さんの研究内容について教えてくださいー

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私が専門としているのは、音楽科教育の歴史です。現在行われている音楽科教育のルーツを辿り、その根源を明らかにしたいと考えています。日本の音楽教育史の研究は、初等教育(小学校)を中心に語られる傾向が強く、中学校や高校での音楽教育は、初等教育と比較して注目されてきませんでした。しかし、中等教育は初等教育とエリート教育としての高等教育を繋ぐ架け橋としてその枠組みを変化させてきた歴史を持ち、研究の意義は非常に深いと考えています。

また、高校では音楽が選択科目となります。私自身、高校時代の音楽の授業が小・中学校の延長線上にあるように感じ、習い事であったクラリネットと比べ魅力を感じず選択しなかったという経験があります。その「もっと面白い授業が作れるのではないか」という実感を原動力に、修士論文では戦後占領期を対象に、学習指導要領が編纂される過程で民間情報教育局(CIE)と日本側との間でどのような折衝が行われ、現在の中高の音楽教育が形作られたのかを研究しました。

音楽教育の性別による違いの歴史が現代にもつながる。

ー今、渡邊さんの興味ある内容を教えてくださいー

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修士論文の執筆にあたり、明治期まで遡って中等音楽科教育をめぐる教育法規を調査した際、音楽教育における「ジェンダーによる格差」が見えてきたことが非常に興味深い発見でした。西洋音楽は軍隊を通じて日本に導入されたという経緯がありますが、男子教育において音楽が愛国主義的な思想を形成する目的に利用された一方で、女子教育では純粋な芸術教育として充実が図られていたと考えられます。学校設備を見ても、男子の中学校より高等女学校の方が優先的に音楽室が整備されていた形跡が確認できました。理科室などは男子優先だったのに対し、音楽に関しては女子優先の歴史が確認できます。

この傾向は現代の「女の子にはピアノを習わせたい」といった意識にも通じているかもしれません。こうした価値観の起源がどこにあるのかを歴史的観点から探ることで、現代の音楽教育の課題にもアプローチしたいと考えています。例えば、合唱の時間での「男子、ちゃんと歌ってよ!」の言葉が、しばしば笑い種とされます。しかしそこには、変声や音部記号(ト音記号/ヘ音記号)の変移といった男子が音楽の授業に主体的になりにくい構造があるのかもしれません。この、当たり前のものとして捉えられがちな現在の音楽教育の光景が、いつ・なぜ生まれたのか、それは日本独自のものなのか、海外から輸入されたものなのかを探るための研究に取り組んでみたいです。

私自身、男子校の高校に通い、また非常勤講師として男子校で教壇に立った経験があります。その中で、男子生徒たちが非常に生き生きと音楽に取り組む姿を目の当たりにしました。その時の経験が、現在の研究関心に強く結びついているのかもしれません。

ー渡邊さんの研究手法を教えてくださいー

中心となるのは文献調査です。修士論文では、戦後の教育改革を主導したGHQの下部組織、CIE(民間情報教育局)と文部省の会議録を中心に取り扱いました。

また、修士論文に収めることはできませんでしたが、文献だけでなく、聞き取り調査(オーラル・ヒストリー)も行っています。修士論文では戦後まもない時期に教育を受けた90歳前のご夫婦にインタビューを行いましたが、当時の公立・私立の違いや男女の教育格差が鮮明に浮かび上がり、貴重な知見を得ることができました。

音楽と共に歩み、表現を磨いた日々。

ー高校時代まで、どのような生活を送っていましたか。ー

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まず、研究との関わりも深い音楽についてですが、ピアノを小学校低学年の頃から始め、クラリネットも小学校の鼓笛隊をきっかけに始めました。また、小1の時の担任の先生が音楽の先生で、その先生がコンサートに連れて行ってくれるなど、先生との繋がりも強くありました。このように、昔から音楽は身近な存在でした。

勉強に関しては、中学校までは全般的にこなせていたこともあり、地元の福島県立福島高校に入学しました。高校入学後、管弦楽部に所属し楽器演奏にのめり込むようになる頃には、自然と音楽関連の道に進路が絞られていき、次第に、学校内では学ぶことの難しい音楽に関する知識や技能の習得に比重を置くようになりました。

「演奏」の探究から、「教育」への問いへ。

ー大学時代の過ごし方や様子について教えてください。ー

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高校卒業後は、それまでの音楽経験や教員である両親の影響から音楽教師を目指し、専門の先生が多く在籍されている東京学芸大学に進学しました。しかし、進学したのは教員養成課程ではなく、芸術文化課程という技芸がメインの課程でした。そのため、1小節に1日かけて取り組むほど楽器と向き合う生活をしており、卒論ではなく卒業演奏という形で卒業しました。元々、大学卒業後は音楽の教員になろうと考えていましたが、楽器中心の生活を送ってきたこともあり、子どもたちに対して、なにをどのように教えたらいいのかが分からず、教員になることに不安を抱きました。そこで、今まで続けてきた楽器の技術をさらに磨きつつ、教育の方法や理論についても勉強できる、東京藝術大学大学院に進学しました。

ー東北大学大学院教育学研究科を志望した経緯について教えてください。ー

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東京藝術大学大学院修了後は、教員になることを検討し、教員採用試験をいくつか受け、私立中学校の非常勤講師として働きました。しかし、自分にも周囲にも厳しくない性格が教員という厳格性を求められる職業に向いていないと感じ、音楽教育に関わりのある音楽教室関連の民間企業に就職しました。

その企業では、子供を対象としたピアノ教室をメインに仕事をしていました。しかし、何年か働くうちに、会社が目指していることと、自分にできることとの間にギャップを感じるようになりました。自身が時間をかけて探究したいと考えていることと企業としてのスピード感にずれが生じ、次第にそれが大きくなってしまいました。こうした背景から、音楽教育や教育について広く学び直すための時間を作りたいと考え、休職という形で東北大学へ入学しました。

「門戸開放」の理念と、恩師との出会い。

ー東北大学大学院教育学研究科を選んだ決め手はありますか。ー

1番大きな決め手は、広い領域と時代を対象に日本の教育の歴史について研究されている先生がいらっしゃったことです。その先生がとても朗らかな方で、この方に教えてもらいたいと思ったのが大きな決め手です。

また、他の大学ではあまり見られない社会人特別選抜という制度があったことも大きな理由です。東北大学の理念の1つである「門戸開放」が生かされているという意味では、受験に踏み切りやすかったです。

研究を否定されない。整った環境でのびのびと研究ができる。

ー実際に入学してみて、どのような魅力を感じますか。ー

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非常にたくさんの魅力があると思うのですが、自由度が高く、のびのびと研究活動が行えるという点にはとても魅力的に感じています。特に、多くの資料を図書館で手に入れることができ、教育関連の学術雑誌も教育学研究科の図書館に取り揃えられています。

また、それ以上に、研究を否定から入らず、良い所に目を向けてくださる先生方が多くいらっしゃいます。実際に、自分が考えた拙い研究テーマにも、先生が感心してくださったことがありました。このように、上下関係というよりも、学生に目線を合わせた指導をしてくださる先生方がいることが、教育学研究科の良い所かと思います。「こんな些細な研究、価値がないのでは…」と最初から決めつけず、門を叩いてほしいなというふうに思います。

ー最後に、東北大学大学院教育学研究科や社会人選抜に興味を持つ方にメッセージをお願いします。ー

社会人になると様々なことに障壁を感じ、大学院での学び直しに高いハードルを感じると思います。しかし、知りたいことがあればどこまででも研究ができますし、取り組み次第では経済的な支援を受けることもできます。勇気とほんの少しの覚悟を持って飛び込んでみると、とても楽しい時間が待っているのではないかと思います。

■渡邊さんのある一日

7:00 起床
8:00 登校(その日の食事を調達しながら)
9:00 学内アルバイト
10:30 2時限目受講(学部生のための講義を聴講)
12:00 昼食
13:00 読書会
15:00 研究作業(院生室の皆さんとの会話やお菓子休憩をはさんで
21:30 下校
25:00 就寝

読み書きの日本史

著者:八鍬 友広 出版社:岩波書店
発行:2023年6月20日

東北大学名誉教授である八鍬先生の著作。私たち日本人が当然のように手にしている「リテラシー」の尊さを、具体的な事例を通じて知ることのできる一冊。先生のように、丁寧な歴史研究をいつか行いたいと思わされる本。

Profile

渡邊 拓WATANABE Taku

福島県立福島高校出身。音楽教師を志し入学した東京学芸大学教育学部芸術文化課程を卒業後、器楽演奏と音楽教育研究に取り組むことのできる東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程に進学。修了後、株式会社河合楽器製作所に就職ののち、音楽教育史の研究に取り組むための休職を得て、社会人特別選抜枠にて東北大学大学院教育学研究科博士課程前期に進学。
[修士論文]
芸術家音楽における鑑賞指導の再考ー教科書及び専門誌の分析を通してー(東京藝術大学大学院)
[修士論文]
戦後占領期における中等音楽科教育の形成の諸相(東北大学大学院)