ミネルヴァ・ノート

教育学研究科・教育学部インタビュー

TOHOKU UNIVERSITY

04

身近な生活と国際社会のつながりを意識 
して、グローバルな世界へ飛び出そう。

CAO Lei

教育学研究科 総合教育科学専攻
助教

CAO Lei

曹 蕾

2023.2.14

グローバル共生教育論コースは国際的な視点で現代社会に求められる人材を目指せる。

━━普段の仕事内容や、コースの特徴を教えてください。

東北大学大学院教育学研究科で、グローバル共生教育論コースの講義を担当しています。当コースは、グローバル化する社会における教育課題について、さまざまな観点から問い直し、現代社会に求められている新しい教育の実践と研究ができる人材を目指すコースです。
私が担当している科目は、 大学院教育学研究科の国際実践研究Ⅰ、国際実践研究Ⅱ。この科目では、事前学習と集中講義を経て、最後には学生主体のフォーラムを開催します。例えば修士1年生 の場合、自身の今後の研究計画を発表して、先生方からフィードバックをいただくという内容のフォーラムです。学生が主体となって計画するのが特徴で、そのための会議のサポートに入るのも私の仕事です。

━━コースの授業以外にはどのような仕事をしていますか?

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教育学研究科・教育学部は、国際的に活躍できる人材の育成に力を入れていて、コース間を越えた国際プログラムが豊富にあります。
例えば、Asia Education Leader (AEL)コースは、アジアの教育課題に対応できる国際的視野をもった人材の養成を目的とした教育プログラム。日本、台湾、中国、韓国から5つの大学の学生たちがコースに参加し、英語での講義やグループワーク、現地調査などの活動をおこなっています。こちらは大学院生向けのコースですが、学部生でも先行履修が可能です。
他にも、国際交流会や国際ウェビナー、2023年10月には国際学位コース(I-GES)が発足するなど、国際プログラムが多数あります。こうしたコースやイベントに関連する業務が私の主な仕事です。

地方の教育問題。中国と日本の共通点とは。

━━曹先生の研究テーマについて教えてください。

近年の社会環境の急激な変化に伴い、大都市圏にかぎらず地方においても質の高い人材を求める動きが強くなってきています。こうした地方の人材創出に関する研究は、2010年代頃からアメリカや日本、ドイツなどの先進国で進められてきました。これに応える戦略は、主に地方企業の雇用創出を通じて大卒の若手を地元に定着させるといったものです。
こうした学術背景を踏まえた上で、私は母国の中国について研究しています。経済新興国としての中国における、地方の人材育成の変容が主な研究テーマです。
具体的には、地方であっても質の高い人材を育成するという目的のもとで、行政、企業、大学はそれぞれどんな行動、連携をとることができるか。三者共同の仕組みによって創出した人材には、どのような変容が見られるか。その結果として、地方経済や社会はどう変容していくか。こうした視点で研究していて、質の高い人材育成、人材確保の仕組みを考えています。

━━中国と日本では、地方の人材創出の問題に共通点がありますか?

面白いことに、中国も日本もここ4~5年で似たような変化をしています。
中国では、これまで大学といえば研究型が多かったのですが、近年は質の高い労働力とスキルの育成に焦点を当てた職業教育型の大学が増えてきています。企業にとっては即戦力となる人材の確保につながるので、より企業と教育機関の連携が進んできているんです。
日本でも、2019年に専門職大学という新たな学校制度ができました。この学校の特徴は、高度な実践力と豊かな創造力を養うことを目的としている点で、これも企業との連携を軸にしています。
現状、私の研究は主に中国の高等教育、つまり大学や大学院の教育を研究対象としていますが、東北大学がある仙台においても質の高い人材創出と確保は課題のひとつだと思うので、研究を通じていつか貢献できるようになりたいと思っています。

自分の現状を知ることが成長につながる。

━━大学受験ではどのような勉強をしましたか?

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高校時代の勉強は、日本人の皆さんとほとんど同じで、毎日の予習や復習、宿題をこなすことが基本の勉強方法です。その上で、私は苦手科目の克服に力を注ぎました。 一番苦労したのは歴史です。なぜ自分は歴史が苦手なのだろう?と、原因を考えてみると単純に勉強不足だと思ったので、受験に向けて歴史の勉強時間を多く取るようにしました。時間をかけて教科書を読んだり、参考書で勉強したり、わからないところは授業後に先生に聞きに行ったりしました。試験の結果が返ってきたら、間違えたところをすかさずチェック。なぜ間違ったのかを分析して、理解できるようになるまで机に向かいました。
こうして勉強時間を増やすというシンプルなやり方で、歴史の成績はすぐに良くなりました。

━━苦手意識のある分野にはどのように向き合いましたか?

私が意識したことは、表面的な知識だけではなく、その裏にあるつながりをイメージして、情報を包括的に捉えるというやり方です。すると、生きた知識として蓄えられるようになります。
また、自己分析することも有効です。例えば好きな科目、嫌いな科目があったとして、どうして好きなのか、なぜ苦手と感じるのかを分析してみます。すると私の場合、歴史が苦手というより、長い文章を読むことが苦手ということに気づきました。なので、教科書や参考書をとにかくたくさん読むことで、苦手意識を克服していきました。 試験の点数を書き出して、表を作るのも良いと思います。文字にして可視化することでわかることがあります。好きな科目でも、意外と点数は不安定だと気づくかもしれません。ですから、まずは自己分析で自分の現状を知ること。それが苦手科目の克服につながると思います。

まわりと比べず自分の歩みたい道を選ぶ。

━━進路を決めるときに大切にしたことは何ですか?

まずは高校生のうちに文系と理系の選択があると思いますが、私は正直なところ理系の方が得意でした。でも、小さい頃から日本の漫画やアニメが大好きで、将来は必ず日本に留学しようと決めていたので、日本語学を専攻できる大学に進むため文系を選択しました。
進路を選択するときに大切なことは、まずは自分がやりたいこと、歩みたい人生について考えることだと思います。世間の常識や同級生の進路が気になって、まわりに合わせたくなるかもしれませんが、大切なのは自分の気持ちに素直であることです。
そして、先生や両親など自分より人生経験が豊富な方々の意見を聞くことも重要。いろいろな意見を聞いた上で、改めて自分の気持ちと向き合ってみれば、本当に進みたい道を選択できるのではないでしょうか。

勉強と部活の両立に励んだ充実の4年間。

━━大学時代はどんな学生生活を送っていましたか?

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大学4年間は、日本語の勉強に集中して取り組みました。日本の大学へ留学するためには、日本語能力試験のN1 (5段階ある試験の中でもっとも高難易度で、幅広い場面で使われる日本語を理解することができるレベル)に合格する必要があったので、気を抜かずしっかり専門科目の勉強に費やしました。
一方でダンス部にも所属し、同じ趣味を持つ友人とたくさん出会うことができました。定期的なダンスの練習を通して少しずつ成長していることを実感し、自己肯定感が高まって、健全な競争力も磨かれたと思います。一番の思い出は、ダンスの省大会に出場し、団体で賞を獲れたことです。
改めて振り返ると、大学4年間は勉強と部活を両立することができた充実の期間でした。

博士課程を目指し早いうちから実践的な学びを。

━━日本に留学してからはどのような研究をしていましたか?

中国の大学を卒業後、広島大学大学院国際協力研究科教育文化専攻に進学しました。 ここに決めた理由は、日本の学生のみならず多国籍の人が集まる環境で研究できると思ったからです。
ここで私は、「中国の高等職業教育における応用型人材育成の変容」を中心に研究を始めました。さまざまな国の文化や価値観をもつ同級生と意見を交わすうちに、自国の特徴がより見えてくるように。例えば、日本やアメリカの大学教育がどういう経緯で今の形態になったのかを知った上で中国を見ると、中国ならではの変遷の特徴がわかるようになります。
留学した頃の私は、日本語が多少話せる程度で、アカデミックな文章など書いたこともありませんでした。それでも、将来は大学教員として活躍してみたいというキャリアを描いていたので、より専門性を高めるため博士課程に進学することを念頭に勉強しました。
具体的には、修士課程の早い段階で学会に参加したり、専門誌へ論文を投稿したりしました。 また、知識を得るだけでなく現地調査を前提とした研究にも力を入れました。私の研究対象は中国の高等職業教育でしたので、中国社会の実態を把握するためのデータ収集や分析なども必要になってきます。研究者としての実践力を身に付けるため、所属した研究室の先生と相談しながら研究計画を立て、それを実行し、博士課程に進学するための準備を整えていきました。
こうして無事に博士課程に進み、 最終的には日本語の論文だけでなく英語の論文も出すという目標を達成することができました。最後の数ヶ月間は、論文投稿、博論の試験、大学への就職活動が重なり多忙を極めましたが、あの重圧を乗り越えた日々が今の自信につながっています。

東北大学なら世界レベルの教育専門家を目指せる。

━━東北大学の大学院教育学研究科や教育学部の特徴を教えてください。

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実は広島大学にいた頃、東北大学大学院教育学研究科が主催した国際ウェビナーに参加したことがあります。そこで、学生中心の国際交流活動が盛んな校風に触れ、東北大学に興味を持つようになりました。
実際に東北大学で教鞭をとるようになって感じているのは、学生にとって主体的に取り組めるプロジェクトが多く、成長につながりやすい環境だということです。 また、AELコースやI-GESなど、多様な国際プログラムがあるので、東アジアはもとより世界レベルの教育学の専門家を目指すことができます。
多国籍な学生が集まり、多様性に富んだ学びを深め、共生する意識が醸成できる環境ですから、グローバルな視野をもって勉学に取り組みたい方には特におすすめです。

━━では最後に、受験生へのメッセージをお願いします。

今、皆さん一人ひとりの目の前にある世界は、実は国際的な動きと連動しています。例えば、中国のとある地方で起きている教育問題も、ひもとけば国際的な出来事と結びついているのです。ですから、今いる場所だけを見るのではなく、もっとたくさんの知識を学び、視野をひろげていきましょう。東北大学大学院教育学研究科や教育学部は、それができる環境です。あなたの知識欲や探究心を、ぜひここで研究にぶつけてみてください。

国際教育開発論

—理論と実践

著者:黒田一雄/横関祐見子
出版社:有斐閣
発行:2005年4月

国際教育開発に関する専門用語や概念を簡潔かつ明確に解説しており、実践事例や国際協力団体の事例など、具体的な取り組みについても詳しく説明されています。理論と実践の両面から「教育開発」や「国際教育協力論」について学ぶ、初めての一冊としておすすめです。

Profile

曹 蕾CAO Lei

中国の河北農業大学外国語学部出身。2014年来日、2015年広島大学大学院国際協力研究科教育文化専攻に進学。2022年同博士課程後期修了。 同年4月より東北大学大学院教育学研究科助教に着任。博士(教育学)(広島大学)。

教育学研究科・教育学部 教員プロフィール